「つまり、ウチのバンドを抜けるって事だね…?」
「あぁ、こんなお遊びやってらんねぇよ…」
「そうか…、残念だね…」
メンバーのリーダーがそう呟いた。
ヴィジュアル系崩れの顔がよりいっそう崩れた顔になった。
俺はもっと高みへ行くべき人間だ。
こんなお遊びバンドなんてやってられるか!
「それじゃあな…」
そうして俺はスタジオを後にした。
俺の名前は、木崎杏太(きさき きょうた)
バンドでメジャーデビューを志す夢を持った人間だ。
最近は夢を見失った若者が円満してるという話だが、俺は違う。
バンドで成功して、メジャーでデビューして一躍メディアで活躍するはずの人間だ。
今まで在籍していたバンドはクソだらけだった。
お遊びや、アマチュアで満足しているようなクソだらけのバンドだらけだった。
今や、仲間と言えるのは、愛用のギター”フライングV”ぐらいだった。
杏太はお遊びバンドに別れを告げたあと、街へ出て、愛用のフライングVを傍らに置き、缶ビールをかっくらっていた。
「なぁ…、俺たちの居るべきところへたどり着けるかなぁ…」
俺はフライングVに向かって話しかけた。
案の定、返事は無い。
「あ”ぁ”-!!明日からまたメンボ(メンバー募集)探しだなァ!」
杏太は「はぁっ」とため息を一つ付きフライングVを担いで6畳一間の部屋へ帰っていった。
-翌朝-
「うぅん…」
杏太の憂鬱な朝が始まった。
今日はバイト休みだから、楽器屋でも行ってメンボでも見てくるか…。
そうして、お馴染みの楽器屋に到着した。
楽器屋に付くや否や楽器屋の店長が大声で話しかけてきた。
「はっはっは!杏太!またクビになったんだってな!お前もそろそろ腰を落ち着かせたらどうだ?」
店長とは顔馴染みだが、未だにこのテンションには付いていけない。
「オヤジさんには関係無いよ。これは俺自身が決める事だから」
「がっはっは!こりゃ一本取られたな!それじゃ、気の済むまでメンバーを探すといい!」
「へぃへぃ、そりゃどうも」
そう言った杏太はメンボの張り紙が張ってある場所へ一直線に向かった。
「う~む…」
メンボの張り紙を見ると、「Dil en glayのコピーバンドやってます!興味のある方はぜひ!」
だとか「女子高生バンドです!17~25歳くらいのベースやってくれる人募集です!主にGOGO7199のコピーやってまーす!」
「SEXレーザー光線のコピーやってます。慣れてきたらオリジナルもやりたいと思ってます。下手ギター募集、年齢は20~30まで」
杏太はどれにも興味を惹かれなかった。
「邦楽ばっかかよ…」
流石に杏太も呆れかえった。
だが、ふと、あるメンボに目を奪われた。
「B.O.F リードギター募集。年齢、性別一切不問。テクニック重視。オリジナル歓迎」
杏太はこのメンボに何故か惹かれるモノがあった。
「おやっさーん!このメンボ貰ってくよ!」
「お!杏太の気に入るバンドが見つかったか?そりゃ結構結構!ガハハ!」
ここの店長はいつも豪快だ…。
**************************************************************
杏太は、アパートに帰ってからメンボを良く見てみた。
あからさまに汚い字。
だが、音楽にかける情熱が伝わってくるそんな募集メモだった。
「さっそく電話かけてみるか…」
メンボに書いてある電話番号に電話を掛けてみた。
「ぷるるるるっ」
「ぷるるるるっ…」
出ない。
今は不都合なのかもしれないな…。
そう思った杏太が携帯を切ろうとした刹那、通話状態になった。
「あ~…、もしもし?」
電話の先の人物はけだるそうに応答した。
「あの、バンドのリードギター募集を見て、電話したんすけど…」
「あ~、メンバー希望の方?ちょっと待ってて、今メンバーと話つけるから」
しばらく、通話状態のまま、携帯の先で会話してるのが分かる。
「…っていうことで、メンバーが…」
「今度はどんな人だろうね!楽しみだよ!」
「今度ばかりは逃げ出さないといいがな…」
「まぁ、いいんじゃね?取り合えずオーディションしてみれば?」
会話の内容が丸聞こえだ。
「おぃ~っす、話がまとまった。取り合えず、明日アッシュ(スタジオ)で待ち合わせしよう。四時集合でいいかな?」
「OKっす、それじゃ、明日四時にアッシュの前で…」
「そんじゃ、また明日ね~、遅刻したらオーディション無しだからね」
「わかった」
そうして杏太は明日、スタジオアッシュに四時に行くことになった。
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午後四時:スタジオアッシュ前
「うぅ~む…」
杏太は唸っていた。
そう、メンバーが誰一人現れないのだ。
「…俺、時間間違えたかな?」
そんなことを呟いていると、一人の少年が近づいてきた。
「やほ~、キミだね杏太ってのは、僕はドラムの紫苑(しおん)だよ!」
「もしかしてB.O.Fの?」
赤い髪の毛をした少年だった。
まだ中学生くらいじゃないか。
こんな子供がちゃんとドラムを勤められるのか?
杏太はそう思った。
「あー!今、こんな子供にドラム叩けるのか?って思ったでしょ!僕のテクニックを見て驚かないでよ~!」
この子は相当ドラムに自信があるようだ。
「そんな事は思ってない。実力重視だとメンボに書いてあったからな」
「ホントかなぁ?まぁ、いいけど?」
そして、ぞくぞくとメンバーが集まってきた。
「僕はベースの黒須(くろす)だよ、よろしく」
黒須と名乗った男は、黒髪に紫色のメッシュを入れたロン毛で、いかにもナルシストって感じだった。
「俺は、下手(しもて)ギターの如月(きさらぎ)だ!今日のオーディション頑張れよ!」
何故か励まされてる俺。
この如月という男は、金髪リーゼント、スタジャン、サングラスといった”いかにも”な格好をしていた。
「ところで、ヴォーカルがまだ来てないようだが…」
俺がその話をすると、紫苑と名乗った少年が喋り始めた。
「あ~、また遅刻してるね、夢魔っち…」
「夢魔…?ヴォーカルか?」
「うん、夢の魔って書いてインキュバスって読むんだけど、皆、夢魔(むま)って呼んでるよ」
そうこう話し込んでるうちに、その夢魔がよたよたと歩いてきた。
金髪、ピアスとアクセサリーでジャラジャラしていてホストのような顔立ちをしているが、どこか人をひきつける「何か」を持っていた。
「また飲んできたんですか?」
ベースの黒須が言った。
「アルコールは俺のガソリンなんだよ!」
夢魔はひょうひょうと言い放った。
「夢魔ァ!この人がオーディションに来た杏太さんだよ!」
紫苑が勝手に自己紹介してくれた。
「ど、どうぞよろしく」
「おーぅ、硬くならずリラックスして行こうぜ!」
そして集まった5人はスタジオ入りした。
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「まず、どうする?何か弾ける曲は?」
夢魔が提案する。
「洋楽ならある程度弾けるが、邦楽がいまいちわからん」
「じゃ、オリジナルは?」
「オリジナルなら何曲かある」
「じゃ、オリジナルちょっと弾いてみてよ」
突然のリクエストに杏太は一瞬戸惑ったが、オリジナルは自分の音楽性を証明できる唯一の武器だ。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
そう思った杏太は、ガサゴソと、自前のエフェクターを取り出し、シールドを繋いで、アンプと繋げた。
杏太の一番好きな、オーバードライブの音色で勝負しようと決めていた。
ギャウゥン!
杏太の演奏が始まった。
これは俺の自信作で、誰にも負けない自信があった。
ギューン…。
演奏が終わった。
どうだ!これが俺のサウンドだ!!
「う~ん、イマイチだな…」
夢魔があっさりと俺のサウンドを否定した。
「なんだと…?」
続けて夢魔は話続けた。
「この音源にオーバードライブを使ったのは正解だと思うけど。イマイチ盛り上がりに欠けるね」
「そんな…」
「如月!お前ならこの楽曲どうやって編曲する?」
「そうだな…、こんな感じかな?」
下手ギターの如月がさっき聞いたばかりの俺のオリジナル楽曲をアレンジし始めた。
「な、なんだ、このサウンドは…!」
このサウンドは俺のテクニックより遙に上を行っていた。
「ま、そんな事だ。今回の話は無かった事に…」
「待ってくれ!もっといい楽曲を作ってくる!それまで、待ってくれないか!?」
夢魔がう~ん、と考えている。
「まぁ、この楽曲もアレンジすればモノになるみたいだし、いいよ。ただし、条件がある」
「条件!?何だ!言ってくれ!」
「一週間だ、それ以上は待てない」
夢魔はきっぱりそう言い放った。
「い、一週間か…。分かった、一週間で、何とか新しい楽曲を提供する。それがダメなら諦めよう」
「OK、それじゃ、今日はこの辺で解散といこうか」
「ちょっと待ってくれ」
杏太は異議を唱えた。
「お前たちの演奏も聴いてみたい、俺だけ試されるってのも尺に合わないんでね」
「ん~、めんどくせぇな。まぁいいか、そんじゃ、やるか」
夢魔はめんどくさそうにしてるものの、どうやら演ってくれるらしい。
「準備オッケー!いつでも演れるよ!」
紫苑はいつでもセッション出来るように準備していたらしい。
「僕もいつでもOKだよ…」
黒須も準備していたらしい。
下手ギターの如月もさっきの演奏で、準備は整ってるらしい。
「う~し、そんじゃ、行きますか、Living Ded!」
ギューン!
演奏は、ピックスクラッチから始まった。
スタタタッタタタタタタン!!
それに続くようにドラムスが小気味良いリズムを刻む。
それとベースがドラムと一体になってリズム隊を形成させる。
リフが終わり、夢魔が歌い始めた。
と、同時に鼓膜に直に響くような声。
~~~♪~~♪~♪
杏太は、その音に心奪われていた。
それほど、この音の集合体には人を魅せる威力を感じた。
「す、すげぇ…」
杏太は今までのバンドの陳腐さを改めて感じた。
ジャーン!
「す、凄い…、こんなバンドがアマチュアで活動してるなんて…」
「まぁ、世の中広い。俺等程度のバンドなんてその辺ゴロゴロしてるってこった」
夢魔が嘲笑気味に言った。
「いや、このバンドは絶対今のミュージックシーンを変えることが出来る!」
杏太は夢中になってそう言った。
「ま、リードギターが見つからない状態じゃ何にも出来ないんだがな」
「俺が、絶対このバンドのリードギターになってみせる!」
「あ、そう。それじゃ、一週間後を楽しみにしてるよ」
「分かった、一週間だな。待ってろよ、絶対納得させる楽曲を作ってみせる!」
「おぅ、頑張ってくれ」
******************************************************************
「中々良かったじゃん、あの杏太って人、何でメンバーにするのためらうのさ?」
紫苑が夢魔に話しかける。
「そうだな、まだ原石って感じだ。これからアイツはもっと伸びる」
「それじゃ、バンドに入れてからでも良かったんじゃないの?」
「忘れたのか?あいつの事…」
「忘れちゃいないけど…」
その話になると、如月が話しに割り込んできた。
「あいつの話はもうやめようぜ。それより、ラーメン食っていかね?」
「お、いいね。食ってくか、ラーメン!」
夢魔が話しをやめた。
紫苑はまだ納得していないようだった…。
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「一週間で、オリジナル…。それにあれを超える楽曲か…」
杏太は6畳一間の部屋で構想を練っていた。
「まぁ、やるっきゃねーんだけどな…」
杏太はB.O.Fなら自分が理想としてた活動が出来るとそう直感していた。
「おっしゃー!やってやるぜぇ!!」
そう意気込んでみたが、そうそうアイデアが浮かぶわけでもないので、取り合えず明日のバイトに備えて寝ることにした。
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今日のあとがき。
今回はバンドモノ。
これも短編でやろうかと思います。
で、自分で気に入った、もしくは人気の高かったものを連載しようかと…。
しっかし、いつもながら名前には一苦労させられる…。
名前考えるだけで、五分はかかるよ。
一応バンドマンっぽい名前を考えてみたんですけど、どうっすかね?
で、またタイトルなんですけど、何にしよう?
『ドラゴンオーバードライブ』ってのはどうかな?
なぜ、ドラゴンかは、後々説明していきます。
まぁ、勘のいい人は分かると思いますが、バンド名がヒントです。
それじゃ、『ドラゴンオーバードライブ』第一曲目終わりです。
それではまた、ギグで会いましょう。
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